天狗と『花祭り』の舞を舞った話
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不思議な力をもち、行動がよくわからなくて、気味の悪い存在である天狗には、
人間の世界に近づかないでほしいと、昔の人たちは、考えていたようです。
ですから、山で『花祭り』舞を舞ったり、笛を吹いてはいけない、
もしそんなことをすると、天狗が出てきてさらわれる、という言い伝えがありました。
東栄町に、幸作さという人がいました。
若いころから、せわ好きでしっかり者でしたが、花祭りが大好きで
どこの花祭りにも出かけていっては、舞を舞うのが、何よりの楽しみでした。
ある日、幸作さは、明神山に近い山へたきぎをとりに行きました。
いっしょうけんめい働いて、たきぎの束が一背負(背中いっぱいで運ぶほどの荷)できる
ほどになったので、ひとやすみしました。
この日は、風もなく、暖かだったので、いい気持の幸作さは、あの言い伝えを忘れて、
口笛を吹き始めました。見ると、近くに木の切り株がありました。
切ったばかりの木切れを手にすると、切り株を太鼓代わりにたたいて、拍子をとりはじめました。
そうしているうちに、夢中になり、立ち上がると舞を舞い始めました。
ふと、何かの気配を感じました。ふりかえると、高い木の枝に立派な感じのひとが、
羽団扇を持って、すわっていました。
赤い顔の真ん中には、髙い鼻があります。(つづく)